楽しくない遊園地

 今から五年前の話である。

 毎年夏になると、兄弟妹と私で四人、示し合わせて実家に集まっていた。
 私は、妹が連れてくる姪達と遊びに行くのが楽しみで、その年の夏は暑さが心配ではあったが、姪達も小学2年と幼稚園児だったので、Y山の遊園地に行くことになった。
 近くには、有名な心霊スポットのY山橋があり、木々も多く、緑豊かな情景も昔のまま残っていた。
 この遊園地は乗り物系のアトラクションが多く、姪達にはまだ無理かなと思いながら、チケットを購入した。
 入場ゲートで、別の家族と一緒になった。
 その家族は、二十代後半位の若いご夫婦で、子供は、うちの姪達と同じ位の男の子二人たった。
 この男の子達とは、同時に入場したせいか、アトラクションの回り順がほぼ同じで、度々顔を合わせた。
 最初に気になったのは、下の男の子の泣き声だった。
 どのアトラクションに行っても泣いていて、父親に無理矢理乗せられているように見えた。 そして聞こえてくる会話に驚いた。
「嫌だ! 怖い! 乗りたくない」 と泣き叫ぶ男の子に、母親が、「男の子だろ! 泣くな! 乗ってこい」 と怒鳴るのだ。
 そうすると、父親が無言で泣いている男の子を抱き抱え、上のお兄ちゃんを連れて三人で乗り物に乗る。
「あんなに怖がってるのに、可哀想だね」 と妹と話していた。
 反対にうちの姪達は、大喜びで次々とアトラクションを制覇していく。
 そして、身長が足りず乗れない時など、「乗りたい」と大泣きして、逆の意味で母親である私の妹を困らせていた。
 遊園地の奥まで進み、ゴーカート乗場で順番待ちをしていると、またあの一家がやってきて後ろに並んだ。
するとまたもや男の子が、 「嫌だ! 離して! あっちいけ」 と大泣きしていた。
「あんなに嫌がってるのに、無理矢理乗せなくてもいいよね。あれじゃ虐待だよ」 と妹に話すと、妹が、「あのお兄ちゃんも変だよ。全然楽しそうじゃないもの」 と言う。
 きっとこれが、あの夫婦の教育方針なのであろうが、せっかくの楽しい遊園地が、あの男の子達には苦しみでしかないのが残念だった。

昼になり、食事スペースで昼食をとっていると、件の泣いていた男の子が走ってきて、私達のテーブルの下に隠れた。
私は、 「乗り物怖いね。大丈夫?」 と声を掛けた。
 すると男の子が、 「乗り物怖くない」 と言う。
「じゃあ、お母さんが怖いのかな」 と聞くと、 「お母さん怖くない」 と言う。
「じゃあ、何が怖いのかな?」 と聞くと、 「変なお兄ちゃんがずっと付いてきて怖い」 とのこと。
 すぐには理解出来なかった。
 やがて、あの鬼のような母親がやってきて、私達のテーブルの下から、荒っぽく男の子を引っ張り出した。
 母親は、 「すみません」 と会釈して、子供を連れて行こうとした。
 咄嗟に私が、 「子供さん何人ですか?」 と尋ねると、 「一人だけど」 と怪訝そうな顔で答えた。
 妹が、目を丸くして言葉を失っていた。
 私は、 「えっ! お兄ちゃんは?」 と思って、改めてその家族の方に目を向けると、お父さん、お母さん、そして泣いていた男の子の三人だけだった。
 お兄ちゃんがいなかった。

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ

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