くぐもった泣き声

怪談、と言うには憶測で補完した部分があり、想像の域を出ないお話ですが、書かせて頂きます。

当時小学5年生の私は、夏休み中児童館のキャンプに参加しました。

森の中のロッジで仲のいい友達や面白いキャンプリーダーの大人の人と、蕎麦打ちの体験や登山、いろいろなレクリエーションを楽しみました。

ただその中で唯一、私にとって非常に憂鬱なプログラムがありました。

お約束の肝試しです。

私の地元にはK大橋と言う有名な心霊スポットがあります。

自殺の名所であり、テレビでもたびたび取り上げられているところです。

身の回りの人も話の種や面白半分でそこに行き、車に手形を付けられた、声が聞こえる、お祓いに行った等の体験談が尽きません。

そのK大橋に肝試しに行くと聞き、私は断固として参加を拒否しました。

テレビの心霊特集などは怖い物見たさで見てはしゃぐ私でも、実際に行くとなると話は別です。

それに先述の通り周囲の実体験を聞いた身で、とても参加する気にはなれませんでした。

当然キャンプ参加者の男の子達には散々からかわれましたし、友達の女の子はルンルンで出掛けて行きました。

そうは言っても現金な性分、人伝てに聞く分には気にはなる物で、帰ってきた友達に何か見聞きしたか聞き出しました。

「私は何もなかったけど、Rくんがね、橋を渡る時になんか聞こえたって」

「えー! 本当に?!」

「赤ちゃんの泣き声みたいな…、でもなんかすごい遠い、っていうかくぐもってる感じで、良くわかんなかったって!」

やはりK大橋は本物なんだな~としみじみと思い、友達と談笑して眠りにつきました。

くぐもった赤ちゃんの泣き声。

それについて深く考えもせず時間は過ぎて、児童館のキャンプについてもいつしか「ひと夏のいい思い出だったな~」なんて思いを馳せるようになりました。

そうして中学2年生の時、知り合いの人にこの話をする機会がありました。

人一倍ホラー好きな人で、様々な怪談で盛り上がっているうちK大橋の話になりました。

赤ちゃんの泣き声の事を話し終えた時、その表情が少し翳った事に気づきました。

知り合いは何やら指折り数えて、納得したように頷いています。

「そうだ、ちょうどその時期、T市にあるラーメン屋のおじさんが不倫して、女の人に赤ちゃんが出来ちゃったんだよ」

店主の奥さんがひどく当たったらしく、その女性はK大橋から投身したそうです。

お腹の赤ちゃんと一緒に。

「…赤ちゃんの声、くぐもってたって言ったよね? その女の人のお腹の子の声だったんじゃないかなぁ?」

朗読: 繭狐の怖い話部屋

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