変な顔のビビりと 赤シャツの部屋

大学生の頃、風呂トイレ共同の学生寮に住んでいた。

その寮は、築60年ほどで、建てられた当時は木造だったらしい。

今では増改築を繰り返したものの、部屋の内装は綺麗ではあるが、

外装はみすぼらしく、学生寮と言われなければ廃墟のような建物だった。

風通しは悪く、夏は日中の日差しを壁が吸収して夜に放熱するため

夜でも部屋の温度が40度弱にまで上がり、冬には一桁まで低くなる。

エアコンや暖房器具を使えば、ブレーカーが落ち、寮全体が停電状態になるため、

基本そのような電気を使うものは使用禁止されている。

だから、なるべく寮にいる時間を少なくするために近くの図書館で勉強して、

俺にとって寮は寝るだけの場所だった。

そして、ある真夏に奇妙なことが起こった。

いつものように、図書館から帰り、自分の部屋のある二階へと階段を上っていた。

古い建物なので、階段を上る「トカン、トカン、トカン」という音で

誰かが帰って来たのが分かるほど、壁は薄く、廊下に響く。

「今日も暑くて寝むれそうにないなぁ」とか思いつつ、ドアを開けた。

ドアを開けると六畳ほどのスペースに机やベットがあるはずなのに視界にそれらしきものはなく、

見慣れぬ家具や壁に貼った覚えのないプロ野球選手のポスターが目に入った。

そして、内装に違和感を感じた。

ボロくなっているというか塗装が剥げているのか明らかに自分の部屋ではない景色だった。

「あれ?部屋間違えたっけ?」などと思っていると、

床に赤いアロハシャツ?みたいの着てうつ伏せに倒れている人がいた。

俺は、「完全に部屋間違えたわ」と思って、ドアを閉めた。

しかし、部屋番号は間違ってない、名前も自分のプレートが貼られている。

どうなってんだ?と思いつつ、もう一度ドアを開けると、

さっきの赤シャツ(歳は同じくらいもしくは上)が起きたのか驚いたようにこちらを見ると、

「なんですか?」と言うので、「こっちのセリフだよ」と思いつつも

「あの…  ここ僕の部屋なんですけど…」と言うと、赤シャツは小さい声で「はぁ?」と言ったのが聞こえた。

すると、近くにあった木製のバットを手にとって、

「変な宗教ですか?勧誘お断り!警察呼びますよ」と怒っているのがわかった。

バットを手に持たれて、怖くなったのと「ヤバイ人だ!」と思ってとっさに部屋を出た。

どうしようと思って管理人の所へ行こうかとも思ったんだけど、

一階に住んでる親友のところに今あった出来事を話に行った。

親友に事情を話すと鼻で笑われた。

「確かに盗まれても困るもんはないからって、鍵しない俺が悪いんだけど…」とか愚痴っていると、

「俺も鍵は閉めてないよ」とか笑いながら言う親友に少しイラっとしたが、

「こっちが警察呼べば、とりあえず一回部屋に行ってみよう」と提案してくれるのでやっぱ良いヤツだと思った。

親友と再び部屋に戻って、ドアに手をかけるとそこに赤シャツは居なかった。

驚くことに、さっき見た家具やポスターすら無くなって、

普段自分が生活している部屋の風景だけがそこにあった。

親友は、「警察呼ばなくて済んだな」とかクスクス笑っていたが、俺は何が何だかわからなかった。

この話を親戚が集まる正月に、父の弟である叔父さんにしようと思って、

というのも真面目な性格の父とは対照的な叔父さんは、歳は30程違うが、明るく陽気で面白かった。

俺は勝手に兄貴のような存在として慕っていて、恋愛相談とかもよくしていた。

そしてなにより、叔父さんも大学生の頃にあの寮に住んでいて、俺にあの寮を紹介してくれたのだ。

だから、多少環境が悪くても、安いし立地はいいからと、この寮を出る予定はなかった。

そして、夏に起きた出来事を話そうと、まずは寮での生活とかあるあるを話してたんだけど、

叔父が「鍵はしとけよ!最近物騒だからなぁ」と言ったので,今だと思って話そうとして、

「俺も鍵はしてなかったんだけどな、寝てたら知らん奴が入ってきたんよ!

 一回出てまた入ってきたから、殺されると思って近くの本だかバットだか持って帰れ!

 って言ってやったことがあってなあ!」と笑い話のように俺に話してきたんだが、

俺は愛想笑いも忘れて、固まってしまった。

数秒して「えっ!」って驚いたけど、「まさかなぁ」なんて気持ちもあったから、叔父に聞いてみた。

「おっちゃん、赤いアロハシャツとか着てた?」それを聞くと一瞬驚いたのがわかった。

「あんま、昔だから覚えてないけど…金なくて毎日洗濯せんと同じ赤の半そで着てたわ!ガハハッ」と笑ってたけど、

俺は「なにこれ?!」と思って部屋番号を聞くどころか、その出来事を話すのを忘れてしまった。

もしかしたら話したくなかったのかもしれない。

だって、「そん時のヤツ、変な顔しとったわ~、

 きょとん顔みたいな…ビビッてすぐどっか行ったけどな!ガハハッ」とこれまた自慢げに話してたけど、

「おっちゃん、たぶんその変な顔してビビッてたヤツ………………オレです。」

ちなみに、おっちゃんは大の巨人ファンです。

朗読: 繭狐の怖い話部屋

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