世間知らずの恐ろしさ

九州出身の私は、高校卒業と同時に東京のとある会社に就職しました。

すぐに特定されそうなので業種はぼかしますが、そこは新入社員の半分は毎年全国各地の高校から募集し、高卒の子は会社の寮住まいで採用という形をとっておりました。

私が入った女子寮は会社がアパートを一括借上げしただけのところで、他に幾つかある寮も全て部屋のみ提供で寮母さんや常駐の管理人といった人は存在しませんでした。

ワンルームに2人が定員で、出身の近い先輩社員か同期と同室。

狭い代わりに家賃は月5000円で、入社5年目まで住むことが可能でした。

とても東京で独り暮らしなんて出来ない給料だった為、初めはみな寮に大人しく住むのですが、2、3年もすると辞めたり彼氏と一緒に住んだりで抜けていき、住所変更を届け出た先輩の空きに新たな新入社員が投入されていきます。

会社側からの干渉は一切無いため、右も左も分からない地方から来た新入社員は、同室の人や職場の先輩からの情報のみが頼りという感じでした。

私の部屋は杉並区の2階建て8部屋あるアパートの1階で、16人の定員に対し新入社員の同期8人と先輩8人。

実際に住んでいた先輩は3人だけでした。

後になって知るのですが、このアパートは若い女性のみが住む寮だという事は周りにはバレバレだったようで、私が住む何年か前には強盗事件もあったそうです。 ここで起こった同期の間での出来事を幾つか書いてみます。

1.敷地は1.5㍍のコンクリート塀で囲まれているのですが、1階の私の洗濯物が盗まれる。

ジーパンが無くなっていて初めて気付き、調べると下着も幾つか足りないので数回に渡って盗られていた様子。

2.早番で5時頃に起きて支度していると、夏で開けていた窓の外で朝帰りらしい酔っぱらいが、覗いちゃおうぜという話し声と共に壁を登ってきて目が合う。

3.2部屋隣の同期が年末に部屋で一人で寝ていると、夜中話しかけられて目を覚ます。

布団から起き上がると玄関先に見知らぬ小太りの男性。 怖すぎて固まっていると、男性は

「鍵が空いてたよ?危ないよ!ちゃんと閉めなきゃ」

という事を何度も繰り返し話しかけてくる。

「分かりました。ちゃんと閉めます!」

と布団から動かずに繰り返していると、男性は納得したのかそのまま帰っていった。

その後慌てて鍵を閉める。

4.50人近くいた同期の中でも一番可愛い子が2階に住んでいて、その日は彼氏が寮に遊びに来ていた。

玄関の横にユニットバスなので、お風呂に入ると窓の湯気などで玄関から分かる。

その子がお風呂に入っていると 玄関の覗き穴のネジを外から回して外し、風呂上がりを覗こうとする不審者発生。

彼氏が覗き穴のネジが落ちる音で気付き追い掛けたが捕まえられず。

その子をピンポイントで狙った辺り、以前から尾けたりして部屋を突き止めていたっぽい。

5.寮内で一番小柄な子が遅番の帰り、寮の近くで男性に抱きつかれる。

やはり男性とは力の差があり全く振り解く事も出来なかったそうだが、たまたま人が通りかかり男性はスッと居なくなり慌てて寮に逃げ込む。

これら寮にいた2年の間で起こりましたが、怖いのは誰も警察に相談していないこと。

二十歳そこそこの田舎出身の私たちだけでは、通報するという考えに至りませんでした。

個別で先輩に相談した人もいましたが、それが上までいっていないのか、会社側からの動きも何もありませんでしたので、私たちの中でもこれらが大事だとは思わなかったのです。

十数年たった今では、当時の自分達本当にバカだなと思いますし、そんな子達を集めておいて何の注意も対策もしなかった会社をおかしいと思わず勤めていた事もあり得ない、怖いと感じております。

会社はまだ健在ですし、全国の高卒の募集もしております。

今の若い子達は防犯などの意識はもっと高いでしょうが、せめてその寮が移動してあの場所じゃなくなってるといいな…と思います。

朗読: 繭狐の怖い話部屋

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