傍らから……

 これは義母の知り合い夫婦が体験した話です。

 ある日、Aさん夫婦はお墓参りに行きました。
 掃除をし、花を飾り、水をあげ、線香に火をつけようとすると、マッチもライターもない事に気がつきました。
「うわ、困ったな……」と夫婦で落胆していると、傍らにある掃除道具収納庫から突然、着物を着た女性が現れて 「これ……」とライターを手渡してきました。

「え、すみません。お借りします。あのう、あとでお返ししますけどどちらの方に行かれますか?」と尋ねると、着物の女性は「あっち……」と指さしました。
 Aさん夫婦はお線香をあげ、拝んだ後、指をさされた方へライターを返そうと向かいました。
 ところがそこは行きどまりで、着物の女性の姿はありませんでした。
 Aさん夫婦は首をかしげながら 「それにしても、あんな小さくて狭い掃除用具入れから、着物姿の女の人が、ライターだけ持って出て来るなんてね……」 と、今あった不可思議な出来事にゾッとしたそうです。

朗読: 小麦。の朗読ちゃんねる

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