職場の後輩のY美さんは、怪我をするたびに、必ずグロい詳細を報告してくる。
その話し方が生々しくて、私はわざと気持ち悪がるふりをして、相手をしてあげる。
「これ見てください」
彼女は、手のひらの大きな絆創膏を私の目の前に突きつけて、 「ハサミで肉まで切っちゃいましたー。血が凄かったです」 と言ったりする。
そんなサディストのY美さんから聞いた話の中で、とても興味深かった話がある。
Y美さんが、以前、他の課にいた時のことで、そこにはA子さんという、三十代後半の先輩社員がいた。
A子さんは、とてもおしとやかで綺麗だけど、仕事はミスが多かったらしい。
しかし、周りの男性社員からは人気があり、誰もミスなどを責めたりはしない。
A子さんは、いつもにこにこしていたので、他の課の人からも「素敵な人」と思われていたと思う。
ところがである。
この素敵なA子さんは、同じ課の女性社員達の間では、少し浮いていた。
なぜなら、女性社員の間では、ミスはミスとして、間違いを指摘される。
すると、プライド高めのA子さんは、人が変わったかのようにヒステリックに怒りをあらわにした。
その裏の顔を見たら、誰も関わりを持とうとは思わないのだという。
後輩のY美さんも、それで何度となく、嫌な思いをさせられて頭にきていたそうだ。
それでもA子さんは、翌日になると、まるで何事も無かったかのように、にこにこと先輩風を吹かせてくる。
我慢の限界を感じていた時、ある事件が起きた。
倉庫で内容は不明だが、A子さんが、他の女性社員から仕事のミスを指摘され、A子さんは泣き出して、八つ当たり的に周りの備品やら、文房具類やら、紙の束を投げ始め、それがたまたま近くにいたY美さんの上半身を直撃してしまった。
Y美さんは、顔と首から流血して、制服のブラウスが、血で汚れてしまったという。
その後、A子さんは泣きながら早退してしまったが、Y美さんは、応急手当だけで、仕事を続け、定時にて帰宅したそうだ。
家に帰り、制服のブラウスを脱いで、とても驚いたという。中に着ていたタンクトップも、流血で汚れていた。
「そのタンクトップ、どうしたと思います?」 とY美さんが聞くので、 「捨てたの?」 と聞き返すと、 「ちゃんと洗濯しましたよ!タンクトップは大丈夫だったけど、ブラウスは、シミがとれなくて捨てました」 とのこと。
しかし、ここでY美さんがニヤニヤと微笑み出して、サディスト全開の様相を呈した。
Y美さんは、その洗濯したタンクトップを普通に着用していたそうだ。
すると、ある時、あることに気が付いたそうだ。
「あのタンクトップを着て会社に行くと、その日は必ずA子先輩が、大きなミスをするんですよね。あとね、転んで怪我するとか、家族のトラブルがあって早退とか、まあ色々ありましたよ」 とのこと。
私も少し驚いて、言葉を失っていると、 「そのうちね、あのタンクトップをね、わざと着るようになったんです。災いがちゃんと起こるか確かめたくて」
私が、 「それは呪いと同じだよね」 思わず、そう言うと、 「思った通りでした。呪いのアイテムなんて、何でもありですよね。ほんと、びっくりだったわ」 とのことだった。
A子先輩は、体調を崩して退職してしまい、Y美さんは、それから暫くして、うちの課に移動となった。
呪いのタンクトップはもう処分したそうだ。
しかしそれから、Y美さんは、怪我をすると、私に必ず知らせに来るようになった。
なぜかは不明だったが、今回は、密かに社内恋愛していた彼氏が、浮気をしていたらしく、揉めてハサミを振り上げたら、逆襲にあって流血したらしい。
それで絆創膏を貼って、私にグロさのアピールをしてきたわけだが、Y美さんのその顔は、とても嬉しそうだった。 悪魔の微笑みだった。
そして、その彼については、営業先から戻る途中、車の事故で緊急搬送されたとの知らせが入った。びっくりだった。
これは偶然起こった事故なのか、それともY美さんの呪いなのか、私には分からなかった。
仮に呪いだったとしても、今回の呪いのアイテムが、何であったのか、私もこれ以上関わりを持ちたくないので、聞けないでいる。