龍を握る

 昨年、冬の朝、駅のホームで電車を待っていた。
 ラッシュアワーを外しているので、一両目の三番扉前の立ち位置には自分しかいない。
 ホームから正面に見える、葉が落ちた木立の間に朝日がチラチラと漏れている。 その光が自分の吐いた息を白く輝かせる。
 舞っている小さな塵もキラキラしながら冷たい空気の中で滞空している。
 塵に混じって、目の前に細めのうどんのようなものがフワフワと漂っている。
 うどんが空中を漂う訳がないので、たぶん細長く絡んでしまったクモの巣か何かだろうと思いつつ観察した。
 うねるようにして、なんだか意思を持って動いているようにも見える。
 いつまでも自分の前から移動しないので、近づいてみた。
 龍だった。 細めのうどんのような龍。 よく見るとちゃんと手足があり、鬣や髭もある。
 さすがに鱗までは確認できないが、紛れもない東洋の龍だ。
 凄いものを見てしまったと、急いで写真を撮ろうとした時、電車が来るアナウンスが流れた。
 そのタイミングで龍が急に上昇しようとしたので、ポケットのスマホを取り出そうとしていた利き腕の左手が咄嗟に龍に伸びた。
 そして、潰してしまわないぐらいの加減でグッと握った。
「熱っ!」 と思わず叫んでしまったほど、手の中に燃えるような熱を感じて、反射的に手を開いてしまった。
 開いた手からものすごい早さで上空に龍が飛び去って行き、すぐに見えなくなった。
 まだ少し熱を帯びる手を見ると、手のひらの下の方に小さい丸い水ぶくれのようなものができていた。
 触ってみると、少し盛り上がってはいるが、痛くはなかった。
 その水ぶくれの少し上に五芒星の様な手相も出来ていた。

 一年近く経った今でも水ぶくれのようなものと五芒星の手相がある。
 五芒星の方は若干薄くなってきている気がする。
 利き腕は左なのだが、箸とペンは右に矯正しているので、水ぶくれや手相が消えてしまう前に左手でロトくじのマークシートでも塗り潰してみようかと思っている。

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