アリの巣

私は小さい頃、アリの巣を掘るのが大好きだった。

公園や道の途中でアリの巣穴を見つけては、木の枝を差し込んで掘り返す。

沢山のアリ達が慌てて出てくるのが、当時は何故か面白くてたまらなかった。

小学生の頃、休みの日に近くの公園に行くと珍しく誰も居なかった。

地面を見ながら辺りを歩きまわり、桜の木の根元にあるアリの巣を見つけた。

雨が止んだばかりで乾ききっていない土は、掘るのが簡単で、アリ達が運んだ食料が置かれている部屋、幼虫の世話をしている部屋がすぐに見えてくる。

一番大きな女王アリが出てこないかなと夢中になって掘っているうちに、枝の先が何かに当たった。

(何かいるのかな?)

ゆっくりと土をかき分けると、泥と血で汚れた人間の手が出てきた。

「うわっ!」

私はすぐに逃げようとしたが、二メートルほどくらい進んですぐに転んでしまった。

靴が、アリに覆われて真っ黒になっている…。

まるでアリが押さえつけているみたいに重くて、足が持ち上がらない。

慌てて靴を脱ぎ捨てようとしたら、土の中から手が出てきて、白く細い腕が伸びてきた。

腕は私の右の靴を掴んだ。

「誰か、助けて!助けてー!」

叫びながらもがいていると、両足がスルッと靴から抜けた。

どうにか起き上がって、そのまま家まで走って逃げた。

無事に家に着き、息を切らしながら母に公園でのことを話したが、案の定信じてもらえなかった。

とりあえずとサンダルに履き替えて、母と二人で公園に戻った。

公園には私の靴が片方だけ、地面にぽつんと残っていた。

さっき掘った穴を、母と一緒に覗いてみた。

土の中から、もう片方の靴のかかとが出ていた。

アリは一匹も見当たらなかった。

「なんだ、ここにあるじゃない」

母が笑いながら靴を取り出すと、つま先が血まみれだった。

「きゃあっ!」

靴を放り投げ、すぐに警察を呼ぶ大騒ぎになったが、いくら穴を掘っても、何も出て来なかった。

私はこの日以来、アリの巣を掘るのをやめた。

朗読: 繭狐の怖い話部屋
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