私は怪談収集を趣味にしており、今まで多くの友人や同僚、親戚などから話を聞いてきました。
そして、たくさん聞いていく中で、「緑色の人」の目撃談がなぜか多いということに気がついたのです。
例えばこんな話です。
ひとつめ。
友人Kが小六の時、所属していたクラブの宿泊行事で訪れた山間の施設にて、夜肝試しをすることになったそうです。
三人づつのグループに分けられ、五百メートルほどの林道を歩き、突き当たりの東屋にコインを置いて戻ってくる……というものでした。
友人のグループは最後のグループで、三人で組み分けられずに余った一人を加えて、四人での参加です。 往復一キロほどの道のりを、皆で戦々恐々としながら歩きます。
コインを置いて四人が戻ったあと、先生たちがコインを回収。
全グループ分あることを確認し、みんなで勇気を讃えあって、何事もなく無事に肝試しが終了しました。
ですが、全員で施設に戻る途中、それを目撃してしまったのです。
みんなで楽しくお喋りしながら林道を歩いていると、Kはふと視線を感じ、雑木林の暗闇の中に目を凝らしました。
大きな針葉樹の幹の影から、同学年くらいの少年が顔と体を半分だけ出してこちらを見つめていました。
瞬間、人間ではないとわかったそうです。
なぜなら少年は顔から体から、全てが緑色だったから……と。
なぜかKはあまり怖いという感覚がなく、「どこかで見たことあるな?」とぼんやり考えたそうです。
考えながらも、自分を含めた集団は施設に向かって移動しているので、少年を見たままでは移動できず、やむなく視線を外しました。
施設に帰ると、Kと同じく何人かが緑色の少年を目撃したようで、プチパニックになりました。
怖くてその場で言えなかったんだけど……と誰かが言い出し、それに数人が便乗するような形だったようです。
先生たちがその騒ぎを鎮め、グループ毎に纏まるように指示を出します。
その時、Kは気付きました。 クラブは全部で十五人。三人組五グループに分けられて、何をするにもそのグループで……というのがその日の決まりでした。
一人余る筈がないのです。
どこかで見たことがある……と思ったのは、肝試しの時、その子と一緒に巡ったからでした。
なぜ、見たこともない子に違和感を感じなかったのか。
なぜ、それまで三人組だったのに、肝試しのときには四人になっていたことに疑問を抱かなかったのかは、わからない……ということでした。
ふたつめ。
新聞配達のバイトをしていた頃、同僚Mから聞いた話です。
Mは普段から無口なほうで、怪談などとは無縁だと思っていました。
ある日販売所の飲み会があり、酒が入り少し饒舌になったMが、そういえばこの前こんなことがあった……と話してくれました。
その日、マンモス団地の一角を担当していたバイトがバックれ、その穴を埋めるため、数棟の団地を皆んなで手分けして配ることになりました。
Mに割り当てられたのは、十四階建ての巨大団地の一棟でした。
巨大といっても、上から下に降りながらポストに投函していくだけなので、複雑さはなく、楽に終わると思われました。
エレベーター前にフロア毎に必要な部数を用意して、最上階から階段で下に降りつつ、右から左へ……と、順番に配っていました。
半分ほど終わった頃でしたでしょうか。
小走りでポストに新聞を投函していると、背後から突然、いやにハッキリと、「残念だねぇ」と言う声が聞こえました。
反射的に振り返ると、そこにはにやにやと笑う、上半身だけの老婆がいたそうです。
そして、この老婆もなぜか真緑色なのです。
Mは猛ダッシュでその場から離れました。
明るくなってから配り直し、販売所に戻って同僚に経緯を話すと、「あの棟は自殺者多いし、よく出るって有名だよ」と言われたそうです。
みっつめ。
結婚して子供がいる友人Fから聞いた話です。
Fは仕事柄かなり多忙で、家や子供のことはほとんど奥さんに任せっきりでした。
それでも奥さんは、以前は同じ業種だったこともあり、Fの多忙さに理解を示してくれていて、毎日笑顔で送り出してくれていたそうです。
そんな中奥さんが第二子を妊娠し、家族も増えるということで、Fは郊外の中古住宅を購入しました。
中古といっても築10年経っていない比較的新しい家で、小さいながらも庭があり、綺麗でおしゃれな内装、キッチンも奥さん念願のカウンターキッチンで、とても喜んでいたそうです。
ですが、新しい家に引っ越して数週間経った頃から、Fは奥さんの不調に気付きました。
明らかに元気がなくなり、三歳の息子の行動や言動に、やたらと神経質になっている感じがしました。
引っ越しから数ヶ月経ったある日、深夜に満身創痍で帰宅すると、煌々と電気が灯ったリビングのソファで、奥さんと息子さんが眠っていたそうです。
部屋は荒れ放題で、食事したものを片付けもせず。 驚いたやら呆れたやらで、Fは少々怒りながら奥さんを叩き起こしました。
体を起こして、「お帰り……」と、また消沈した様子で応える奥さんに、少しイラっとしたFは追い討ちをかけてしまいました。
「家のことくらいちゃんとやってくれよ。それから息子をこんなところで寝かせるな。風邪ひいたらどうする。妊婦だからって甘え過ぎじゃないか?」という調子で。
すると奥さんは、今まで見たこともないような形相で「何も知らないくせに!!」と怒り始めました。
しまった、言いすぎた……と思ったFは、謝罪してなだめようとしますが、泣きながら憤慨している奥さんは、パジャマのまま息子を連れて、車で二百キロ以上離れた実家に帰ってしまいました。
その後一悶着あった後(離婚寸前までいったそうですが、関係ないお話なので割愛します)お互いに冷静になり、電話越しでですが、ちゃんと話し合ったそうです。
そして、Fは信じがたい話を聞かされます。
奥さんいわく、新しい家に引っ越した後、二階の寝室で息子さんを寝かしつけていると、息子さんがウォークインクローゼットを指差し、「あそこから緑色のおじさんが来る」と言って怯えるようになったと言うのです。
息子さんの怯えぶりは尋常じゃなく、日中二階の子供部屋で遊んでいるときも、「寝る部屋から緑のおじさんが来る!」と取り乱したり、寝かしつけの際には怯えて泣いてしまうので、なだめて寝かせるのに非常に苦労し、寝たかと思うと夜中に叫びながら飛び起きたりするので、とにかく大変だった……と。
そして、件の日はもう二階に上がることすらできなくなってしまい、ソファで泣きつかれて眠ってしまった息子さんを抱いて、疲れ果てた奥さんも寝落ちしてしまったのだと。
そうとは知らず酷いことを言ってしまったことを改めて謝罪し、「でもそれなら相談してくれたら良かったのに」と言うと、「仕事で大変な時期に煩わせたくなかったし、信じられない話だと私自身も思っていたから。買ったばっかりの家だし……」と言われたそうです。
結局、家に帰るのはまだ怖いので実家で里帰り出産したいという奥さんの申し出に了承し、しばらくその家でFの一人暮らしが始まりました。
と言っても、仕事場との往復でただ眠るだけに帰る……という感じだったとのこと。
緑のおじさんの話は、想像力が豊かな幼い息子の思い過ごしだと思っていたFは、そのまま気にせず寝室で毎夜眠りました。
そんな日々が続いたある日のこと。
その日も残業で、帰宅が午前1時頃だったF。
ウォークインクローゼットから下着やらパジャマを取り出そうとした時です。
クローゼットの扉が十センチほど開いていました。
扉は両側が折り戸になっていて、中央部から開く仕組みです。
Fは几帳面な性格なので、朝閉めたはずなんだけどなぁ……と思いつつ、今度はしっかりと閉め、その日はそのまま眠りました。
翌朝、ベッドから起き上がって驚愕しました。
クローゼットの扉は、十センチどころかほぼ全開になっていたのです。
その後、意識してみると、クローゼットだけではなく、二階の色んな部屋の扉が勝手に開いていることにも気がついたそうです。
Fも奥さんも、扉の件以外には、直接的になにかを見たり聞いたりすることはなかったそうですが、とにかく息子さんが怯えて仕方がないので、つてを頼って有名な方にお祓いしていただいたと言っていました。
その後は息子さんも落ち着き、今は二歳になる新しく生まれた娘さんにも、特になにも起きていないそうです。
ちなみに、現在六歳の息子さんに緑のおじさんのことを聞いてみたそうですが、そのディテールがまた恐ろしいので、追記しておきます。
息子さんいわく、全身緑色で、目がすごく大きく、困り顔、口からは舌がベロンと出ていて、舌と首が長くて、ニイニイゼミのような「ジィー、ジィー」という声を出していた(これはもしかしたら耳鳴りかも? と思いました)……らしいです。
と、私が直接聞いた「緑の霊」について書かせていただきましたが、YouTubeなどの怪談朗読を聴いていても、たまにこういった色を持つ霊、とくに緑色の……という霊の話が多いような気がします。
霊とその霊が持つ色は、なにかの因果関係があるのでしょうか?