爺ちゃんが呪われたのは

 ゼミの課外学習で知り合った、Uさんという方から聞いた話です。
 Uさんの祖父は既に鬼籍に入られていますが、以前は大工の棟梁をされていて、とても聡明な方だったようです。
 しかしある時期から足音や話し声に過敏になり、少しでも響くと大声で怒鳴るようになってしまいました。
 また、夜中にUさんやご両親の寝室に来ては 「玄関に誰かが居る」「仏間で誰かが踊ってるぞ」 と言って、頻繁に怯える様になりました。

 そんなある日、夜中に突然お爺ちゃんの部屋から叫び声がしました。
 急いで向かうと、おじいさんは介護ベッドの上で両腕を振り回し、泣きながら叫んでいました。
 その右腕は異常に腫れています。
 慌てて病院へ連れて行くと、右腕が骨折していると言われました。
 一応入院することになり、手続きのため家族が席を外した時です。
 おじいさんは部屋にUさんしか居ないことを確認すると、小声で話し始めました。
「爺ちゃんはな、呪われとる」
「なんでか分かるか」
 いつもの症状かと聞き流そうとしたUさんに、おじいさんは続けます。
「爺ちゃんが若い頃な、心の病気の人がおる家から座敷牢ば新しゅうしてくれんかって頼まれた。 病院じゃ面倒見てくれんけん、家でやるっち言うてな。 ちょっと前まではそがん家いっぱいあったけど、今は違法や言うて、親方は断りよらした」
「やけど、爺ちゃんは仕事が欲しかった」
「親方に黙ってこっそり直しに行って、お金ば受け取った。 そしたらよ、同じような依頼がいっぱいくる様になってな。 爺ちゃんは全部やった」
「十何軒も直しよったら親方にバレてな、もう来んなっち言われてクビば切られた」
「親方はな『お前のやった仕事は縁起が悪か。儲けは寺か神社に納めんといかんぞ』っち言いよらしたけど、爺ちゃんは聞かんかった。 儲けで今の家ば建てて、独り立ちして仕事始めた」
「爺ちゃんな、馬鹿やったけん私宅監置受ける人がどがん扱いされるのか知らんかった。 外にも出られん、まともな扱いも受けん、そがんやったら長く生きる方が珍しか」
 おじいさんは涙ぐんでいる様にも見えた、とUさんは言います。
「今まではな、爺ちゃんも元気やったけん、あん人らも大人しゅうしとった。 見とるだけやった。 けど爺ちゃんよう動けんようになったけんな、怒ってきとる。 嬉しそうに家ん中ば動き回って、爺ちゃんが死ぬのば待っとる」
  戸惑うUさんの腕を掴み、強い口調で言います。
「ええか、爺ちゃんが死んだら、家ば出ろ。 父ちゃんと母ちゃんも連れて出ろ。わかったか」
 Uさんのおじいさんはこの後間も無く亡くなりました。

 Uさんは現在一人暮らしをされています。
 ご家族は、まだご実家に住んでいるようです。

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ

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