ピンクのおばさん

 詳しい時間は覚えてないが、帰宅ラッシュにハマりたく無いから4時前には山を下りだしたと思う。
 街灯もなく、木々は月明りを遮り、谷間は夜中と言っても過言は無いほど闇と静寂に包まれていた。
 バイクは落ち葉で滑ったらもう終わり。ガードレール無いし、コケたら打撲か下まで転がり落ちる。 ヘッドライトだけが頼りだ。
 しばらく進むと、ポツンと人影が見えた。
 中央より少し左側を、白い帽子にピンクのジャケット、茶のリュックに紺のジーンズの女性だと思う。
「こんな真っ暗なのに、ライトも持たないで初心者ハイカーかな?」
「でもライト無いなら、ハイキングコース歩くより道路の方が安全だし、やっぱ経験者かな?」
「邪魔だな、真ん中歩くなよ。でも端は落ち葉で滑って危険だから、車来なきゃ真ん中歩くよな」
 なんて自問自答しながら右側のスペースから抜いていった。
 そこからカーブを3つぐらい抜けるとカーブミラーが見えて、つづら折りの急カーブになった。
 小さなカーブが続くと、突然急カーブが来る山道独特のパターン。
 昼間じゃ気にならないが、ヘッドライトが数十メートルしか照らさない夜じゃ事故のモト。警戒してて正解だった。
「落ち葉で逃げ道が無い、急カーブで対向車なんてシャレにならない」 って暗闇を写すカーブミラーを凝視しながら、その先の事も考えてゆっくり曲がる。
 曲がり終わってヘッドライトが正面を照らすと、数メートル先に人影が浮かんだ。
「さっき人歩いていたし、まだ人が歩いてる可能性あるかも?」って用心してて 、本当にカンが冴えてるなって思った。
 その人は道路の右側を歩いていたので、俺はそのまま左側から抜いて行った。
 白い帽子にピンクのジャケットそして茶のリュック……。
「くっくっく」
 思わず大笑いしそうになった。
 距離にして500メートルぐらい?
 後ろに全く同じ服装の人が歩いているなんて。本人達は気づいて無いんだろうな。
 麓に降りた時、駅とかで鉢合わせしたらどんなに面白いんだろう。
 良い土産話が出来たと大喜びした。
 そしてしばらく走ると。木々の隙間から国道を行き来するヘッドライトが見えて、大分降りて来たんだなと実感する。
 そんな時、手前で2つの人影が見えた。
 その人はこっちを振り返ると、立ち止まって道路脇に避けてくれた。
 わざわざ避けてくれたので、近づく時「ありがとう」と手を挙げてジェスチャーした。
 近寄るにつれて、段々2人の人影が仲良さげな老夫婦だったとヘッドライトが 浮かび上がらせた。
 俺は心の中で「避けないで無視してくれても、さっきみたいに勝手に抜いて行くのに」なんて思っていた。
 あれ? さっきの人、服装は何と無く見えたけどどんな人だったっけ? 
 抜く時ハッキリ見えなかったよな?
 ずっと遠くから照らしてる感じだった?
 まだ夕飯前だし、そんな幽霊って訳でも無いだろう?
 まぁ深夜にライトも持たず林道歩いてたら幽霊だろうけど。

 これがS県でツーリングした時のちょっと不思議に思った話です。

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