高校1年生の冬。僕が所属しているサッカー部は結構ブラックだったもんで、冬休み中もほぼ毎日部活があった。
さすがにキツイと感じたので、ある時、2日ほど休むことにした。
朝、部活に向かうフリをして、外で少し時間をつぶす。
そして親が出勤したであろう時間に家に戻り、ゆっくりする。もちろん、欠席の連絡をして。
その作戦を実行した日。
親が出勤するまでの時間つぶしを考えていなかったので、何をしようかと彷徨っていた時、ふと山の方に行きたくなった。
僕の家は山に囲まれているような感じで、近所の公園の真横にある坂道を行けば、すぐに静かな山道に出ることができた。
たまには落ち着いた雰囲気を味わうのもいいか、と、その坂道に向かった。
坂道に到着し、ゆっくり大股で上がっていく。
すると、知らなかったものが結構あることに気づいた。
広大な果樹園、湧き水を貯めている大きな箱。
山特有の不思議な匂いを嗅ぎながら、新しいものを見つけるたびに立ち止まり観察する。それが結構楽しかった。
そんな中、不気味な小屋を発見した。
トタン板を雑に組み合わせたみたいな小さな小屋だ。
入り口の近くの茂みには、壊れた電子レンジや洗濯機が転がっていた。
正面にトタン小屋、左にはビニールハウスと仮設トイレ。それらはすべて枯れたツタのようなものが絡みついていた。
どうせ、時間つぶしだ、と好奇心でその敷地に入ってしまった。
心臓の音が大きくなる。
その音の大きさで当時は気づいていなかったが、その敷地に入った瞬間から、風の音、遠くの車の音など、今まで聞こえていた音のすべてが消えていた。
ゆっくり足音を立てないように進む。どうやら小屋の入り口は裏にあるようだ。
そして裏にまわると、そこには白いものが積み重なっていた。
例えるなら、焚き火をするときの火種として木の枝が積み重なっている。
そんな感じで白いなにかがあった。
近づいてよく見てみるとそれは骨のようなもの、それも獣というよりは、人間の骨のように見えた。
生まれて初めて見る代物。
恐怖と緊張で見間違えたのかもしれないが、その時の僕はすぐにそこを離れたくて、あれは骨だと断定したまま小走りにそこを出ようとした。
その時だった。
「パキッ」と音がした。
足元を見ると、踏んづけられて折れた木の枝があった。一瞬固まってしまう。
なぜかは分からないが、自分の存在を感知させてはいけないと思い込んでいたので、音が鳴ったことに酷く焦った。
そして、その直感は正しかったようだ。
「ドンッ」
小屋の中から大きな物音がした。
気づかれた、と思い、ダッシュで坂道を下る。
民家が見えたので安心し、歩き始める。
坂の下からあの小屋を見つめる。するとそこには、黒い人影のようなものが見えた。
しかし、明らかに普通ではない。
それには首がなく、頭と胴体が直接繋がってるような感じで、頭の先が少し尖っている。
そしてその姿自体がゆらゆら揺れている。
もう泣きそうだった。
そこからは家まで夢中で走った。息が続かなくても無理矢理脚を動かした。
家に着くなり、カーテンをすべて閉め切って、音量マックスでゲームをして気を紛らわそうとした。
それからはしばらく誰とも話さなかった。
落ち着いた今でこそ話せるが、あのトタン小屋はなんだったのかよくわかっていない。
そして何より、あのトタン小屋の住人が、あの坂道の上から自分を見下ろしていると思うと、今でも寒気がする。