ある真夏の夕方頃の話です。
なんの落ちも何もない話です。
真夏なのもあり、蝉の声のうるささが気にならないくらい仕事での疲れが酷かった私は、自室で寝ていました。
しかし、ふと人の気配を感じて目がさせました。
体は横向きで、私の視線は壁側。人の気配は扉のある反対側です。
この時私はおかしな事に気づきました。
あんなに煩かった蝉の声が一切しないのです。
そして何より異様だったのは、夕焼けなのかもしれませんが、見たこともないくらい濃い赤が、壁紙や部屋中に広がっていたのです。
体を動かそうにもうごかず、目だけ漸く動かせた私は漸く金縛りになっていることに気が付きました。
そしてもう1つ、おかしな点に気づきました。
後ろの人の気配について、ですが、誰かいること自体がおかしいのです。
唯一家に居るだろう祖母は足が悪いので階段の昇り降りが危険なので上がってくるはずがないのです。
他の家族も帰ってくるにはまだ早い。
となると、先程からある背後の扉側にある気配はなんだろう?
一気に怖くなりパニックになりかけていると、スッスッとすり足で近付いてくる足音がしました。
あまりの恐怖に目を固く瞑っていると、すぐ背後まで来ている事に気づきました。
「はやく居なくなれ」と思っていると、背後側のベッドが微かに沈み、気配が私の顔に近づいてるのが分かりました。
その気配は私の耳元で声にならない声で何を言っているのか分かりませんでしたが、吐息だけが耳元にかかり、ゾワッと肌が粟立つのを感じました。
あまりの恐怖に私はそのまま気を失ってしまいました。
ただ、それだけの話です。
その後暫くしてから目を覚まし、その後何も無かったですし、家族にも部屋に来たことを聞きましたが、全くそのようなこともなかったです。
私のただの夢だといいのですが、あの時の感覚があまりにリアルすぎて、あれは夢ではなかったと、それだけは言える出来事でした。