お祖父さんと古い絵

私の祖父は古美術商をやっていましてね。

横須賀の海に近い自宅の一部を店舗用に改装して、小さなお店を営んでました。

まあ、祖父はもっぱら古美術品を集めるのに夢中だったので、お店が開くことはそんなになかったんですけどね。

その祖父が、ある日1枚の絵を買い付けてきました。

その絵は洋館の中の円卓に1人の老人が座っている絵なのです。

特に歴史的価値があるわけではないそうですが、

えらく気に入ってとんでもない金額で買ってきたようでした。

その絵は祖父の部屋に飾られました。

祖父の様子が変わったのは、その数日後でした。

それまでは元気で外に古美術品の買い付けに出掛けてた祖父が、めっきり外に出なくなったのです。

私が祖父を尋ねると、必ずあの絵を見ていました。

祖父は『この絵を見ているだけで幸せな気分になってねぇ…』と上の空で語られたのを覚えています。

それから2ヶ月ほど経ったある日、祖父と連絡がとれなくなってしまったのです。

音信不通になる前日には、近所の人が祖父の姿を見ていたとのこと。

古美術品の買い付けかとも思いましたが、

祖父は買い付けに行くときは必ず50年来の親友である飯野さんと行ってました。

でも今回は、飯野さんにすら何も言ってないようなのです。

すぐに警察に捜索願を出しましたが、半年経っても祖父は帰ってきませんでした。

祖父が行方不明になってから1年が過ぎた頃、飯野さんから私に連絡があり、

すぐに祖父の家に来てほしいと言われました。

私が急いで祖父の家に行くと、飯野さんが焦燥しきった顔で待っていて、

私が何事かと聞く前に『……あいつが、見つかった』と静かに口を開き、

私を祖父の家の中に招き入れました。

飯野さんは祖父の部屋に入り、黙ってあの絵を指差しました。

その絵を見て凍りつきました…その絵には円卓に座っている老人と…私の祖父が描かれていたのです。

『あいつは…絵の中に取り込まれたんだ…』

そんな…信じられない…本当に絵の中に? 私は飯野さんにこの絵を一旦預かりたいと申し出て、

明日取りに来る旨を伝え、その日は別れました。

その日の未明、祖父の家は火災により全焼しました…火元は祖父の部屋だったそうですが、

焼け跡からあの絵は見つかりませんでした。

それから十年後、暇つぶしにふらりと立ち寄った喫茶店で驚くべきものを見ました。

祖父の部屋から消えたあの絵が飾られていたのです。

喫茶店のマスターにどこで絵を手に入れたのか聞いたところ、母方の実家の納屋に眠っていたそうです。

その絵には、私の祖父を含めて円卓に座る人物が7人描かれていました。

朗読: 繭狐の怖い話部屋

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

閉じる