これは、私の兄の〈小学生時代の思い出話〉です。
兄が小学四年生の頃、学校はかなり荒れていたらしい。
みんな自分勝手で、先生の言うことなど全く聞かなかった。もちろん兄も同じだった。
学校から抜け出して、どこか別の場所に行くのが好きだったらしい。
その日も兄と友達は、教室から非常階段に出た。
(あれ? 誰だろう?) 下り階段の途中に、誰かが座っているのが目に入った。
知らない顔だったけど、上級生に見えたという。
「おい、お前ら。どこに行くんだ?」
ニヤニヤ笑いながら、そのどことなく怖そうな上級生が話しかけてきた。
「俺が面白いところに連れて行ってやるよ」
兄たちは断ることも出来ず、彼の後ろに続いて行った。
上級生に連れていかれたのは、学校を出てすぐ近くにある空き家だった。
中に入るとテーブルやタンスなどの家具が残ったままで、今も誰かが住んでいるようだった。
「ほら、これだよ」
上級生が一冊のアルバムを出してきた。ニヤニヤ笑っているだけで何も言わない。
兄は仕方なく表紙を開いた。
どの写真も顔だけが写っている。
赤ちゃんや子供たち、大人たちの色々な顔…
なんとなくこちらを見ているようで、気味が悪かった。
その写真の中に一枚だけ、どこかで見たことがあるような顔があった。
「このアルバムの写真、全部、死んだ人間の顔を撮ったものなんだ」
ふと顔を上げると、あの上級生の姿が消えていた。
兄たちは急に怖くなってその家から逃げ出した。 もちろんアルバムはその場に捨てた。
その夜のこと、兄が自分の部屋で漫画を読んでいた時だった。
ミシッ…ミシッ…何が軋む音が聞こえ、部屋がすうっと薄暗くなった。
驚いて顔を上げると、耳元で声が聞こえた。
『……お前。今日見たもの、聞いたこと、絶対誰にも話すなよ』
あの上級生の声だった。
あのアルバムを一緒に見た友達は、夜中、突然死んでしまったらしい。
その翌日、兄の部屋に死んだ友達の写真が届いたが、すぐに捨てた。
兄は私にこの話をした後、最後にこう話した。
「深央…お前も、この話を誰かに話すなよ?もし話したら、その相手にも……」
さっきからミシッ、ミシッって音が聞こえる。
この話を知ってしまったら、どうなるのだろうか?