スキー場のホテル

 3年前の話です。
 今思えば、夢だったような気もしますが、ずっと印象に残ってる体験をしました。

 私の家族は、毎年2月に県内の有名なスキー場に行っていました。
 その時も同じスキー場の同じホテルに泊まり、同じようにスキーを楽しみました。
 お世辞にも、あまり綺麗とは言えないそのホテル。
 初めて来た時は内心「うわ……嫌だなぁ」と思ったものの、サービスが良く、雰囲気も悪くないなと感じたので、毎年来るのが楽しみになってきました。
 その日も家族とのスキーツアー、夕食が終わり、温泉に入り、疲れが溜まっていたので、すぐ眠ってしまいました。

 深夜一時くらいだったでしょうか。
 ふと、目が覚めたんです。
 私は一度起きてしまうと、なかなか寝付けないタイプなので、「うう……嫌な時に起きちゃったな……」と思いながら、目を瞑って寝たふりをしていました。
 すると、スッ……スッ……と足を摺りながら、歩くような音が聞こえました。
 始めは、「誰かトイレにでも行くのかな」ぐらいにしか思っていませんでしたが、電気が付いてない状態でその音が聞こえることに気づき、次第におかしいと感じ始めました。
 好奇心に負けて目を開けて布団に入った状態で辺りを見回すと、眠っている父の頭部周辺に女性が2人、座っていたんです。
 始めは母と祖母かと思っていましたが、母の髪型とあまりに違うことと、祖母は別の部屋で寝ていて、部屋の鍵もかけているので入ってこれるはずがないことに気づき、私は固まってしまいました。
 声も出せず、目を逸らすことも出来ぬままの状態でしばらくいると、その2人がゆっくり顔を上げて、こちらを見つめてきました。
 そこで初めて気づいたんですが、その人達、顔がない、のっぺらぼうだったんです。
 さらに驚いていると、その2人が私の方に近づいてきました。「これはヤバイ!」と察知し、なんとか身体を動かして、布団の中にうずくまりながら、夜が明けるのを待ちました。
 父の身に何か起こるのではないか、とヒヤヒヤしていましたが、父にも、他の家族にも、特に何かが起こることはありませんでした。

 でも、そのことを話した時の父の表情は今まで見たことない、怯えた様子で、「まさかな……んなわけないよな……」 と呟いていました。
 私がそんな話をしたからか、あの夜、父に何かあったのか、実際のところよくわかりませんでしたが……。
 それ以来、そのホテルにも、スキーツアーにも行かなくなりました。

朗読: 繭狐の怖い話部屋

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