お化け屋敷ごっこ

「おばけに触ったことがある」

そう言うと、ほとんどの人はみんな「嘘でしょ(笑)」とか

「寝ぼけてたんじゃない?」とか、そんな反応をするけど、私は本当に触ったことがある。

おばけって、もっと透き通っていて、蜃気楼みたいにふわふわしていて、触ることが出来ないものだと思っていた。

でも、私が触れたおばけは、しっかりと”人”だった。

それに触れた手のひらから伝わり、体の芯まで凍えていくような冷たさを除いては。

夏休み。沖縄。私は中学生だった。母の実家に家族みんなで遊びに来ていた。

妹と弟は当時小学校低学年で、まだまだ幼く、2人の好きな遊びといえば、かくれんぼ、ごっこ遊び…

その2つを合わせたような遊びが「お化け屋敷ごっこ」だった。

物置部屋のカーテンを閉め、電気を消し、2人が部屋のどこかに隠れる。

準備が出来たら「も~うい~いよ~」と、私を呼ぶ。私は部屋に入り、

隠れていた2人に「わっ!」と脅かされるという遊び。

昼間に薄いカーテンを閉めただけの部屋は、カーテン越しに光が差し込み、電気を消しても部屋の中は見える。

脅かされたところで怖くもなんともないが、2人のために驚くふりをしていた。

何度繰り返しただろう。何度も何度も、お化け屋敷ごっこは続いていた。

私は遊びに付き合うのに少し疲れていたが、2人に飽きる様子はなく、

「もう1回やろう!」と張り切っていた。 「も~うい~いよ~」 よし、これで終わりにしよう。

これが終わったら2人に、もう終わりねって言おう。そう思いながら部屋に入った。

あれ?隠れてない。 ソファの肘掛の部分を背もたれにして、2人が体育座りしているのが見える。

幼いから、見えていないと思っているんだろう。後ろから近づいて、逆に脅かしてやろう。

「どこかな~どこに隠れてるのかなぁ~」 そう言いながら、私は2人の後ろに回るように近づいていった。

「はい!見つけた!ずっと見えてたよ!!」 2人の頭に手を乗せながら声をかけた…が、下を向いたまま動かない。

「ねえ、どうしたの?もう見つかってるよ?」 揺さぶるように頭を触っていたら、異変に気づいてしまった。

さっきまで被っていなかったはずの帽子を被っている。

そして、冷たい。

体が固まってしまいそうなほど… 私は身の危険を感じ、電気をつけに行った。

つかない。何度やってもつかない。

そうしている間も、2人は下を向いたまま動かなかったが、

このままだとまずいと体が警告しているように感じ、カーテンを全開にし、ドアを開けた。

「なんで開けちゃうの~!!」 ソファのところにいたはずの2人が、カーテンの近くのクローゼットから出てきた。

「今、ソファのところにいなかった?」

私が聞くと、2人は首を横に振り、ずっとクローゼットに隠れていたと言う。

全身に鳥肌が立ち、寒気が止まらない。あそこにいたのは誰だったのか。

確かに、2人はそこに座っていた。そして私はそれを触ったのだ。

2人がいたはずの場所を見ると、前の日に100円ショップで買った、子供用の帽子が2つ落ちていた。

怖がる私を見て、妹たちはけらけら笑っていた。私を馬鹿にして笑う2人を怒る余裕もなく、私は黙って部屋を出た。

しばらく、このことは誰にも話せなかった。思い出すと体が震え、寒気が止まらなくなるからだ。

私が母に話せたのは、家に戻り数日経ってからだった。

体の震えを堪えるように手を固く握り、なんとか話すことが出来た。

母は、私の目を見ながら聞いてくれた。そして、「きっと沖縄のおばあと間違えたんだよ」と言った。

母が言うには、沖縄のおばあちゃんの若い頃と私はそっくりらしい。

背丈も、髪型も、顔立ちも、歩く姿もよく似ていると。

おばあちゃんは昔、村の子供を集めてよく勉強を教えたり、一緒に遊んだりしていたらしい。

だから、おばあちゃんと昔遊んでもらった子供が、私のところへ、遊びに来たんじゃないかと。

それを聞いたら、それまで感じていた寒気がさっと引き、震えが止まった。

ただ遊びたかっただけなのなら、少し、可愛く思えた。

あれから20年近く経ち、あの日のことを弟に話す機会があった。

もう震えることも、寒気が起きることもなかった。

「あのさ、もしその時、後ろからじゃなくて前から近づいていって、顔を見てたらどうなってたんだろうね?」

弟の一言で全身に鳥肌が立ち、体が凍えた。

あの時、2人に後ろから近づいていなかったら…下を向いている2人の顔を下から覗いていたら…想像すると震えが止まらない。

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