引き出しの奥

幼い頃、私は引き出しの奥にこっそり宝物を隠すクセがあった。

道端で拾ったガラスの欠片やビー玉、買ってもらった本やキーホルダー。それにゲームソフト。

ゲームソフトは出しっぱなしにしておくと、兄が勝手に持っていくので、

学校に行っている間は引き出しの奥にしまっておいた。

「ただいま」 ある日、ゲームの続きがやりたくて帰ってすぐに部屋に入った。

引き出しの奥に手を入れる。 確かこの辺りに置いたはず。

そう思ってゲームソフトを取り出そうとしたら、引き出しの奥から誰かの手が私の手を握ってきた。

「うわっ!」 私は思わず爪を立ててしまった。 誰かの手は引き出しの奥に引っ込んだ。

一番上の引き出しを外して中を覗いても、何も無かった。

引き出しを全部開けて見てみたけれど、やっぱり誰も居なかった。

少しして兄が私の部屋のドアを開けて入ってきた。

兄の手は、今出来たばかりの引っかき傷で血が滲んでいた。

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