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兄の夢のツヨシくん

ぼくの家族が体験した、実話です。

5年ほど前、社会人になった兄がうつ病を発症し、会社を休むようになりました。

仕事がきつかったのだろう、と心配していたのですが

落ち込んでいる理由を兄に聞くと

「ツヨシくんが夢に出てくる」と言うのです。

ツヨシくん(仮名)は、小学校のころ兄が仲良くしていた、近所の男の子でした。

弟のぼくも交えて、3人でよく遊んでいたのですが

子ども心に羨ましくなるほどの、裕福な家庭だったのを覚えています。

ツヨシくんのお父さんは、動物病院を経営しており

その真隣りにある彼の家は、ぴかぴかの広い一軒家。

家の周りは、お母さんの趣味のガーデニングで常に花が咲き

家のなかは、お父さんの趣味の旅行やキャンプにまつわる

さまざまなお土産、たくさんのキャンプ用品が散りばめられていました。

ツヨシくんの部屋には、おそらくすべての子どもの憧れであろう

ハンモックが吊るされていました。

ぼくも兄もためしにそこに寝てみたのですが、案外寝心地が悪く

今思うと、キャンプで使わなくなったから、部屋に吊るされているのだろうと思います。

やがて、ぼくの家族はその町を引っ越し、ツヨシくんとも疎遠になりました。

それから10年以上……。

名前も忘れかけていた、そのツヨシくんが、なぜか兄の夢に出てくるのだと言うのです。

夢の内容を聞くと、子どものころの姿のままのツヨシくんが

後ろから兄の肩を、ぐいっと引っ張るのだそうです。

子どもだと思えないほどの力強さで、子どもならではの容赦のなさで。

兄は後ろを振り返らずに、肩を引かれるのに耐えるのですが

その手がツヨシくんのものだと、はっきりわかるのだそうです。

何か、よくないことが起きている……

そう感じた母は、霊感が強いという知人・イワイさん(仮名)を頼りました。

イワイさんは、古い占い師の家系で

常人には見えないものや、未来が見えるのだそうです。

しかし「占いでお金を稼いではいけない」という本家の言いつけを守り

必要に迫られたときにだけ、その力を使うのだそうです。

イワイさんは、母から話を聞くと

「ツヨシくんの家に行きましょう」と言いました。

こうして母は、イワイさんと2人で

10年ぶりにツヨシくんの家を訪れることになりました。

ツヨシくんの家の外観は、ずいぶん様子が変わっていたそうです。

隣にあったお父さんの動物病院は、別の名前の病院になり、

家のまわりのガーデニングも、手入れがされておらず、ツタが伸び放題。

近所の誰もがうらやんだ、理想の家庭だったツヨシくんの家が

この10年で変わっていったことが、一目でわかりました。

家を訪問する前に、イワイさんが言いました。

イワイさん「私は行けないわ。あなた一人で行って」

母 「ええっ、どうして私だけ……」

イワイさん「あなたは見えないから、大丈夫」

イワイさん「部屋に仏壇があるはずだから、手を合わせて帰ってきて」

「仏壇……?」と思いながらも

母はしぶしぶ、一人でツヨシくんの家を訪れました。

チャイムを押すと、ツヨシくんのお父さんが出てきました。

お父さんは快く母を迎えてくれて、家にあげてくれました。

たまたま近くまで来たので、ウチの息子が気にしていて……

などなど、母が当たり障りのない話をしていると

ツヨシくんのお父さんは、母を子ども部屋に案内してくれました。

ツヨシくんの部屋には、たしかに仏壇がありました。

彼は、数年前に部屋で首を吊り、自殺していたのです。

ツヨシくんのお父さんは、ぼくの家族が引っ越してからのことを、母に話してくれました。

動物病院の経営が悪化し、すでに別の人に権利を売り渡したこと。

奥さんが不倫をし、離婚をしたこと。

ツヨシくんは次第に精神を病み、家に引きこもるようになったこと……。

母は、ツヨシくんの仏壇に手を合わせ

息子もつれてお墓参りがしたいと話しました。

しかし、ツヨシくんはまだお墓に入っておらず

お骨も仏壇に置いたままになっているのだそうです。

母は、ツヨシくんの家をあとにして、イワイさんと合流しました。

イワイさんは「やっぱり……」と言ったあと、感じたことを話してくれました。

イワイさん曰く、ツヨシくんはまだ成仏せずに

あの部屋に留まり続けているのだそうです。

原因は2つ。

彼がまだお墓に入っていないこと、

そして、彼の精神が子どものまま止まっていること……。

成仏、つまり死者が死を受け入れるには、かなりのエネルギーが必要で

葬式や納骨などは、それを生者が後押ししてあげる儀式。

老衰で死ねば、死者も自然とそれを受け入れることができるが

年若く死ぬと、死を受け入れることが難しいのだそうです。

そして何より、家族がバラバラになる様を見ていたツヨシくんは

一番楽しかった幼少期の思い出にすがったまま、命を絶ちました。

その思い出のなかで一番仲の良かったのは、ぼくの兄。

だからこそ、兄の夢のなかにやってきて、肩をひっぱるのだそうです。

子どもだと思えないほどの力強さで、子どもならではの容赦のなさで。

「遊ぼうよ」、と……。

母はその後、ツヨシくんのお父さんに電話をし

ツヨシくんのお骨をお墓に入れてもらいました。

しばらくして母と兄、ぼくの3人は、そのお墓参りをし

以来、兄の夢にツヨシくんは出てこなくなったそうです。

ツヨシくんの家から帰る途中、母とイワイさんはこんな話をしたそうです。

母 「何も見えなかったけど、やっぱり私には霊感がないのかしら」

イワイさん 「そうかもしれないわ。でもね、その子はたしかに部屋にいたのよ」

イワイさん 「たぶん……部屋の上のほうに」

母は、たしかにツヨシくんの部屋の、上のほうは見ていませんでした。

ツヨシくんの部屋には、おそらくすべての子どもの憧れであろう

ハンモックが吊るされていたはずです。

朗読: 繭狐の怖い話部屋

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